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薬による治療

乳がんで使用する可能性のある抗がん剤は以下の3つで、作用の仕方がそれぞれ異なります。

  • 細胞障害性抗がん薬(一般的に化学療法、抗がん剤という言葉がよく用いられる)…細胞の増殖を抑えることでがん細胞を攻撃する
  • ホルモン療法薬…女性ホルモンの働きを抑えることでがん細胞を攻撃する
  • 分子標的薬…がん細胞がもつ特定の分子(タンパク質)の働きを抑える
    乳がんの術前や術後で使われる分子標的薬にはさまざまな種類がありますが、ここではHER2陽性乳がんに使われる抗HER2薬について説明します。

ここから、薬の種類ごとに、起こりうる晩期合併症についてご説明します。

細胞障害性抗がん薬・ホルモン療法薬

  1. 早発閉経
    40歳になる前に閉経することを早発閉経といいます。シクロフォスファミドなどの細胞障害性抗がん薬は、卵巣機能に影響を及ぼすことが知られています。また、閉経前の方であれば、タモキシフェンと一緒にゴセレリン及び類似の黄体形成ホルモンアナログ剤(LHRHアナログ)を使用し、卵巣機能を停止させて閉経後の状態にすることがあります。このように治療の影響で早発閉経となると、脂質異常症や骨の健康、そして妊孕性(妊娠する力)に影響します。早発閉経によっておこるからだの変化は、ライフスタイルにも大きく関わってくるため、5.ライフスタイル もご参照ください。
    • 骨量減少・骨粗鬆症
      通常の人も更年期を迎えると、骨量が減少していきます。早発閉経やアロマターゼ阻害薬によりエストロゲンが枯渇すると、通常よりも早い年齢から骨量が減少し、骨粗鬆症になるリスクが高くなります。骨粗鬆症があると大腿骨頸部骨折や脊椎の圧迫骨折を起こしやすくなるとされ、生活に大きく影響しますので、予防・治療が重要です。乳がんを経験した80%以上の方で骨量減少があるといわれており、喫煙、過剰な飲酒、運動不足、カルシウム・ビタミンD摂取不足などの生活スタイルも骨粗鬆症を助長させるものとして報告されています。骨粗鬆症には若いころからの蓄えによる骨密度と、ライフスタイルが影響します。骨粗鬆症を予防するためのライフスタイルについては、5.ライフスタイル もご参照ください。
    • 脂質異常症
      早発閉経やアロマターゼ阻害薬によりエストロゲンが枯渇し、脂質異常症のリスクが急激に高まります。LDL(悪玉)コレステロールが高い、HDL(善玉)コレステロールが低い、中性脂肪が高い、この3つのいずれかがあると脂質異常症と診断します。必ずしもすぐに治療が必要とは限りませんが、これらの中でも動脈硬化と強く関係しているのはLDLコレステロールの異常で、値が高いまま放っておくと心筋梗塞や脳梗塞のリスクになります。HDLコレステロールと中性脂肪の異常も、間接的に動脈硬化を促します。喫煙、過剰な飲酒、肥満などは動脈硬化を助長するといわれています。脂質異常症を改善するための食事については脂質異常症予防のための食事もご参照ください。
  2. 妊孕性(妊娠する力)
    細胞障害性抗がん薬により一時的に無月経になることが多いのですが、年齢が低いほど月経が回復することも多いとされています。しかし、薬の中でもシクロフォスファミド(アルキル化剤)やカルボプラチン(白金製剤)などは卵子数を減らすことが分かっており、使用した量によっては永久的に無月経になったり女性ホルモンの産生が低下し、妊孕性(妊娠する力)に影響を受けることがあります。治療を受けた年齢が高いほどその確率が高いとされていますが、個人差もあります。治療後に妊娠の希望がある場合には、医療スタッフに相談しましょう。
  3. 性のこと
    がん治療後の性の問題は、治療の副作用による性腺機能の変化、アピアランスの変化、そしてそれらに起因する人間関係の変化、などさまざまな側面を含んでいます。
    性機能の変化に関する研究では、若年女性のがん経験者の3人に2人が性機能障害を経験していると報告されています。例えば、セックスへの関心がなくなる、オーガニズムに達することが難しい、性生活における満足度が低下する、外陰部の不快感や膣の乾燥など、その経験は多岐に渡ります。性は生活の中の大切な一部です。話しにくいことかもしれませんが、困りごとがあれば専門の相談窓口に相談してみてもよいかもしれません。

    こちらのサイトもぜひご覧ください。
    認定NPO法人キャンサーネットジャパン もっと知ってほしいがんと生活のこと https://www.cancernet.jp/seikatsu/

アンスラサイクリン系薬剤(ドキソルビシン/エピルビシン)

  1. 心臓への影響
    アンスラサイクリン系薬剤によっておこる心臓への負担(心疾患)は、これまで使用した合計量が影響するといわれています。治療を終えた数年後に症状が出ることが多く、息切れや足のむくみ、体重増加といった心不全の兆候があったら、早めに受診しましょう。早期の治療により症状を改善させることが期待できる一方、発症してから時間がたつほど治療が難しくなります。もともと心疾患や高血圧がある方、縦隔への放射線照射の経験がある方、65歳以上の方は特に注意が必要です。

タモキシフェン(ホルモン療法薬)

  1. 血栓症
    タモキシフェンを長期に内服することにより、静脈血栓症のリスクがあります(5%未満)。血栓は、血液がうっ滞しやすい下肢(特にふくらはぎ)にできやすく、血栓が肺動脈に飛んでいくと、息切れや動悸が起こりやすくなったり胸が痛くなることもあります。頻度は高くありませんが、気になる症状がある場合は早めに受診することをお勧めします。
  2. 妊娠への影響
    タモキシフェン内服中の妊娠は催奇形性があるため、内服終了後2ヶ月程度は避妊が必要です。
  3. 子宮体がん
    タモキシフェンを5年内服することにより、子宮体がんを発症するリスクが2~3倍に増加することが報告されていますが、54歳以下ではそのリスクの増加はないといわれています。閉経後の方がタモキシフェンを長期内服する際は、不正出血などの症状があれば早めに婦人科を受診することをお勧めします。

アロマターゼ阻害薬(ホルモン療法薬)

  1. 心臓への影響
    ホルモン療法の中でも特にアロマターゼ阻害薬を内服し、放射線治療も受けている方は、心不全のリスクが高くなります。アロマターゼ阻害薬はタモキシフェンと比べて、心筋梗塞だけでなく高血圧のリスクも上がります。
  2. 骨量減少・骨粗鬆症
    上記の骨量減少・骨粗鬆症をご覧ください。
  3. 脂質異常症
    上記の脂質異常症をご覧ください。

抗HER2薬(トラスツズマブ・ペルツズマブ)

  1. 心臓への影響
    抗HER2薬は心臓に影響することがあります。特にアンスラサイクリン系薬剤と抗HER2薬のどちらも投与された場合は、そのリスクが高まります。息切れや足のむくみ、体重増加といった心不全の兆候があったら、早めに受診しましょう。
  2. 妊孕性(妊娠する力)
    トラスツズマブ(分子標的薬)は胎児への影響は低いと考えられていますが、十分なデータはありません。薬の添付文書によると、投与終了後、最低7ヶ月間は避妊するようにしてください。
参考資料:J Clin Oncol. 2022 May 20; 40(15): 1647-1658.
J Natl Compr Canc Netw. 2013 Aug; 11 Suppl 3: S1-50; quiz S51.
CA Cancer J Clin. 2016 Jan-Feb; 66(1): 43-73.
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版