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敗血症に対する取り組み

敗血症とは

敗血症とは、感染症によって臓器障害が生じている病態をいいます。この臓器障害は心臓、肺、腎臓など生命に関わる主要な臓器の機能が低下していることを指します。

例えば病原体の微生物(細菌やウイルスなど)が腸に感染し炎症を起こすと腸炎となりますが、重症化すると腸の症状にとどまらず全身の臓器に障害を起こし、血圧が下がって全身の血流が維持できなくなったり、十分に呼吸が出来なくなるなどの症状が現れることがあります。

敗血症は生命に関わる重篤な病態で、本邦では年間で推定10万人以上の方が亡くなられているといわれています。また、敗血症は65歳以上の高齢の方がかかりやすい病気であり、高齢化が進む本邦では将来さらに大きな問題となる可能性があります。

敗血症の治療には、病原となった微生物を体内から除去するための治療(抗菌薬や手術)と、機能不全となった臓器を肩代わりする治療(支持療法)の両輪が不可欠です。特に重篤な場合には、人工呼吸器や透析などの高度な医療機器を用いた治療が必要となるため、集中治療室へ入院することになります。

 

ここでは、敗血症に関する当救命救急センターの診療実績や取り組みなどを紹介します。

感染症患者の受け入れ数、診療体制

当救命救急センターは救急搬送患者を中心に数多くの感染症患者を受け入れています。感染症を主病態とした方の受診は年々増加の一途をたどっています。COVID-19(新型コロナウイルス感染症)流行以前からこの傾向はみられていましたが、COVID-19流行によりさらに患者は増加しています。これは、発熱があるなどCOVID-19の可能性のある患者は他の患者と診察室や病棟を分離する必要があることから、一人ひとりの診療に時間を要し、各医療機関の受け入れが難しくなった影響もあると考えられます。

そうした環境にあっても私達はより多くの患者を受け入れることに努めており、近年では救急部門から感染症のため入院する方は年間1000名を超えております(図1)。

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図1 救急部門から入院となった感染症患者の総数


敗血症の治療成績

 私たちの施設では、敗血症及び敗血症性ショックの救命率(28日以内の生存の割合)をモニタリングし、治療の質の維持・向上に努めています。敗血症は20-30%の方が短期的に亡くなられるとされていますが、私たちの施設では敗血症患者の救命率は95%と良好な成績を得られています(図2)(ただし、人工呼吸器などの侵襲的な治療を受けることを希望されなかった方は除きます)。


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図2 救急部門から入院となった敗血症の患者数と救命率



敗血症性ショックは敗血症の中でも特に急性循環不全を伴っている最重症の状態を表しており、世界的には約4割の方が亡くなられるとされています。当院では、敗血症性ショックの救命率80%以上を中長期計画として取り上げ、更なる治療成績の向上を目指しています(図3)。

 
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図3 救急部門から入院となった敗血症性ショックの患者数と救命率



一方で、高齢社会やCOVID-19流行などの社会の変化により、当救命救急センターの感染症患者には人工呼吸器の装着などの侵襲的治療を希望されない方や、臓器障害を呈しなくとも社会的支援が必要なため入院される方も数多くおられます。当救命救急センターの感染症入院患者の平均年齢は70歳代後半であり、高齢社会である本邦の中でも特にご高齢の方が多いという特徴があります。

そこで、救急科では総合診療科・感染症科・呼吸器内科及びその他の内科系診療科との連携により、特定の部門に負荷が集中して受け入れが困難になることを防ぐ環境を構築しています。また、救命救急センター専属の医療ソーシャルワーカーの協力により、社会的支援を多く要し対応に苦慮するケースの救急搬送も問題なく受け入れることが可能となっています。

診療の質の改善に向けて

当救命救急センターはすべての救急患者を受け入れるという活動理念に乗っ取り、数多くの敗血症患者を受けいれております。そのため、救急外来に複数の敗血症患者が並ぶことも珍しくありません。多くの方が同時に救急搬送された場合には診療をお待たせしてしまうこともありますが、そのような場合でも対応が遅れることがないよう、日々診療プロセスの研鑽に努めています。

当救命救急センターではこれまでも敗血症を対象とした臨床研究を行ってきましたが、将来的により多くの研究を実施し、当院のみならず本邦の敗血症診療の質の向上に取り組んでいきます。

 

救命救急センター救急科 松田 航

2023/03/17