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海外視察報告(ベトナム)

ヴェトナムにおける リハビリテーション等 コメディカル部門の国際協力のあり方に関する研究 分担研究報告

国立国際医療センタ- リハビリテーション科
藤谷 順子、木脇 悟、佐藤 未紀子、小町 利治

目次

  1. はじめに
  2. 調査目的
  3. 調査日程
  4. 訪問先
  5. 結果
    1. ヴェトナムにおける病院におけるリハビリテーションの普及
    2. コメディカルスタッフの位置付け-ヴェトナムにおけるMedical Technician
    3. コメディカルスタッフの養成
    4. リハビリテーション関連スタッフの養成
      • 医科大学
      • 看護師養成校
      • 作業療法士(OT)・言語療法士(ST)
      • 義肢装具士(Prosthetist and Orthotist:PO)
      • PT(Physical Therapist)養成
    5. 協会、学会等の職種団体および卒後教育
      • ヴェトナムリハビリテーション協会(Vietnam Association of Rehabilitation;VIAREHA)
      • ホーチミンPT協会
    6. 訪問した病院のリハビリテーションの現状
      • Bach Mai病院 リハビリテーション科
      • Back Mai病院 神経内科
      • 国立小児病院 リハビリテーション科
      • Cho Ray病院
  6. 考察:現地調査によってわかった問題点
    1. リハビリテーションの概念の普及・啓蒙
    2. 病院内におけるコメディカルの位置付け
    3. コメディカルスタッフ養成:人材のリクルートと教育内容の充実
    4. 卒後教育を担う職種団体:臨床の進歩をバックアップするシステムの構築
    5. 卒前・卒後教育に共通する教科書・参考書不足:国際協力のひとつのプロジェクトの可能性
  7. 謝辞

1.はじめに

医師・看護師、あるいは公衆衛生などの医学の分野に比較して、コメディカル部門の国際協力に関する研究・論文は少ない。今回、われわれは、今後のコメディカル部門の国際医療協力を計画する上で重要な、職種・資格・教育背景・職務などを調査することを研究目的とした。分担研究者としてのわれわれは、とくに、リハビリテーション関係のコメディカル部門について、ヴェトナムにおける現状を調査した。

いっぽう、リハビリテーションという視点で国際協力をみると、ヴェトナムのリハビリテーションの分野での国際協力には、既にCBR(Community based Rehabilitation:「地域に根ざしたリハビリテーション」)としてJICAを初め、いくつかのNGOも日本から参加し活動を行っている。CBRはWHOにおいても人材資源に乏しい発展途上国において、有効な手段として推奨され、現在ヴェトナムでもCP等障害児を対象の中心として46Province,170District,約1800Communeで展開されている。専門医療従事者、有識者に乏しい地域においても確実に実施できるようにWHOの「CBRマニュアル」がヴェトナム語に翻訳されている。

本研究では、リハビリテーションの中でも、あえて、CBRではなく、リハスタッフの教育面と、病院リハビリテーションの現状に視点をおいた。その理由は、(1)コメディカルスタッフの一部門としてのリハビリテーションスタッフ、という捉え方をしたから、であり、また、(2)われわれは医療リハビリテーションの専門家であり福祉の専門家ではないこと、さらには、(3)当センターが従来、ヴェトナムの病院に対する援助を多数行ってきた経緯があり、コメディカルとしての視点でそれを補完したいという意図があるためである。途上国におけるリハビリテーション計画は、初期においては,CBRのように、人的資源の乏しいことを前提に行うメリットが大きく、やや福祉的な側面を持つ。しかし、その後,急性期医療などの医療体制が充実してくれば、おのずと、その医療体制に見合った医療リハビリテーションの充実も必要となってくる。国内で入手可能なヴェトナムのリハビリテーションの資料は主にCBRについてであり、現地に赴くことで、情報の少ない、医療リハビリテーションおよび関連コメディカルスタッフについての調査を行うことを目的とした。

今回、我々は、既に国際協力のプロジェクトが実施されているNationalレベルの病院を中心に、現地での医療現場を視察し、関係者からインタビュ-形式で調査を行い、リハビリテーションのコメディカル分野での現状と問題点を検討したので報告する。

2.調査目的

ヴェトナムにおけるリハビリテーションコメディカルスタッフの教育体制および医療現場での実状を調査し、今後の国際協力の可能性を探る。

3.調査日程

平成16年3月14日から3月19日

4.訪問先

HANOI

1.Bach Mai Hospital (Dept. of Rehabilitation,Dept. of Neurology)
2.Ministry of Health
3.National Pediatric hospital(Dept. of Rehabilitation)

Hai Duong

4.Medical Technical college No.1

Ho Chi Minh City

5.Cho Ray Hospital (Dept. of Rehabilitation)
6.Univ. of Medicine and Pharmacy, Faculty of Nursing and Medical Technology, Dept. of Rehabilitation

5. 結果

(1)ヴェトナムにおける病院におけるリハビリテーションの普及

保健省によれば、国立の総合病院(10病院)のすべてと、国立小児病院にはすべてにリハビリテーション科が設置されている。また、Provinceレベルの総合病院においても64のProvince 中56のProvince の病院にリハビリテーション科が設置されている。Districtレベルの病院にはリハビリテーション部門があり、CBR活動が主に行なわれている。 一方、ヴェトナムにおけるリハビリ専門病院に該当するものとしては、地方の医療保険局が管轄するProvinceレベルの病院が30ある。また、労働省が管轄する職域ごとの病院(我が国の労働災害病院にあたるものと考えられる。)が20~21ある。これらの専門病院の運営に関して基準はなく、人材不足の状況にあり、今後人材不足を補えなければ開散の方針が立てられており、廃院にしたらその専門職を前者の病院に吸収する計画とのことであった。ただし、その実情は十分に調査できなかった。日本におけるリハビリテーション専門病院といえば、専門医・多数の訓練スタッフを要する訓練効果の高い施設だが、ヴェトナムの場合は、スタッフはむしろ少ない、リハビリテーション看護病院と呼ぶこともある、職種別、など、障害者の療養目的の施設のようである。脊髄損傷センターなどの、疾患・障害別のリハビリ専門病院もないとのことであった。

(2)コメディカルスタッフの位置付け-ヴェトナムにおけるMedical Technician

ヴェトナムでは、コメディカルスタッフはMedical Technicianと呼ばれている。教育制度上は2001年のホーチミンの学校の大学化までは専門学校レベルであった。また、我が国では、コメディカルスタッフは各職種ごとに専門化され、一括してコメディカルスタッフと呼ぶことのほうがむしろ少ないが、ヴェトナムでは,皮膚科テクニシャン、などのように各科に配属されて呼称されたり、学校もまとまっている(後述)、など、個別職種の専門性の低い位置づけである。ヴェトナムは学歴社会であるため、大学卒でないテクニシャンの地位は高くない。看護以外は、メディカルテクニシャンの学校は国立が3校あるのみで、国家資格試験はなく、卒業試験に合格すればライセンスとなる。大学卒でないため、そのままでは教職につくことはなく、主に医師が指導を担当するか、あるいは、一定の臨床経験の後,研修で大学卒(B.A)の資格を取ったテクニシャンが教職につくようであった。

(3)コメディカルスタッフの養成

看護を除き、単科で養成校があるのではなく、国内に3つある養成校で、一括して複数種類のMedical Technicianを養成している。われわれはそのうち2校を訪問した(表1)。北部Hai Duongの養成校(Medical Technical college No.1)では広い敷地のなかに、校舎ごとに各職種が分かれており、寮は共通,というように計画された形の学校であった。また、南部ホーチミンの養成校(ホ-チミン医科薬科大学付属校)では、本部校舎のほかに、市内に各学科が点在しており、複数の単科の学校が合併した印象であった。 定員、倍率、卒業者数の把握、現職者数の把握などは質問したがデータはそろっていないとのことであった。

表1 訪問した2つのPT養成校
 ホ-チミン医科薬科大学付属校Medical Technical College No.1
創立 1972年(大学化は2001年) 1960年 コ-ス
コース 中級専門、高等専門、大学(B.A.) 中級専門、高等専門 入学資格
入学資格 高等学校卒業 高等学校卒業
修業年限 2年、2.5年、4年 2年、2.5年
他の学科 看護師、助産婦、レントゲン技術、麻酔技術、放射線技術 歯科技術、看護師、助産婦、検査技術、麻酔技術、レントゲン技術
生徒数(PT) 高等専門23名、大学レベル46名 中級専門約30名、高等専門約30名
カリキュラム 保健省の指導により「共通」とのことテキストも関係者が分担執筆して、共通のものを生徒に配布?
教官 専任教官は少なく、病院スタッフが教えに来たり、病院実習も多い

(4)リハビリテーション関連スタッフの養成

a. 医科大学

ヴェトナムには全国に9つの医科大学があり、その全てにリハビリテーション学部はある。そのうち2つは文部省、7つが保健省の管轄となっている。カリキュラムに関しては、保健省が管轄している。ハノイ医科大学は文部省の管轄となっている。医学生は全員,在学中にリハビリテーション医学を廻り、リハビリテーションに関しての教育を受けることになる。しかし、リハビリテーション専門医を養成できているのはハノイ医科大学のみで、他の医科大学ではリハビリテーション専門医は養成できていない。学位に関する卒後教育という面でも、リハビリテーション科医師のDoctor、Masterの教育コ-スはハノイ医科大学のみに設置されている。

b.看護師養成校

全てのProvinceには看護師養成校があり、大都市には複数あるらしい。講義の中にリハビリテーションの講義が必ず含まれている。しかし大病院においても、家族の付き添いが常習であり、基本的なADL介護は患者家族にゆだねられているのがヴェトナムの現状であり、看護師の仕事内容・配分自体、わが国のそれとは異なる。

c.作業療法士(OT)・言語療法士(ST)

我が国のリハビリテーション職種は、PT、OT、STそれぞれが、専門職として資格が確立しており、国家資格を有している。しかし、ヴェトナムでは、OT、STは公式には養成されていない。先進的な臨床現場では,PTが兼務したり,外国からの指導を得たスタッフがOT・STの業務を行っている。ST養成の計画が進行中で、既にカリキュラムは完成し、保健省の認可を待つ状況である、あるいは数年後には学部ができる、などの情報を複数から得た。

d.義肢装具士(Prosthetist and Orthotist:PO)

ハノイにドイツの援助で建設・運営されているPO養成校が1校あり、ヴェトナムでは唯一の養成校となっている。その卒業生がそのままPOとして認知されている。 ヴェトナムに3校あるコメディカルスタッフ養成校に学科としてPO養成の科は存在せず、計画もないとのことで、現在のところ、海外からの援助に依存している感が否めない。 義肢装具士を雇ってい公立病院は少なく、多くの義肢装具士は、私立のクリニック、あるいは義肢装具会社(製作・販売)に就職しているようであった。

e.PT(Physical Therapist)養成

PTの養成校入学には、義務教育(小学校5年、中学校4年)を終え、高等学校(3年)を卒業していることが条件となる。選抜方法は、試験が中心で文部省が管轄して行っている。単科のPT養成校ではなく、メディカルテクニシャン養成校の一つの学部(Physical Therapy department ,Department of Physical therapy )である.国立の養成校が全国に3ヶ所あり、1つはハノイ(Hai Duong(Medical Technical College No.1)(中級専門・高等専門)、二つ目はフエ(中級のみ)、そしてホ-チミンにホ-チミン医科薬科大学付属校としてMedical Technology School(中級専門・高等専門・B.A.コ-ス)がある。毎年合計約100名程度の卒業者を輩出しているようである。(入学者数が、毎年異なることや定員が明確でないため数値は推定上のものである。) PTには、統一の国家資格は無く、養成校卒業と同時に資格を所有することができることになっている。しかし、職務上は教育年限により資格に若干の違いがあり、医師と相談できる・医師と協力して・医師の指示で、など微妙な違いがあるようである。学歴社会のヴェトナムでは教育年限が違うと、給与・昇進などが異なるのは当然であり、わが国で、専門学校卒でも大卒でも、国家資格上は同じPTになる、専門学校卒でも理学療法部門のチーフになれる、という状況はむしろ驚かれた。 コ-スとして「2年(中級専門)」・「2.5年または3年(高等専門)」・「4年(大学レベル:Bachelor of Arts(B.A.))の3つのコースがある。この最後のコースは2001年にホーチミンの学校が大学に昇格したことで可能になったものであり、それまでは、既に臨床で働いている中級専門コース卒業者、高等専門コース卒業者のTherapistを対象に臨床業務を継続しながら、一定の年限単位を取得すると、学位をとれるコ-スのみであった。(図1) ホ-チミン医科薬科大学付属校では、現在は中級・高等専門コースも併設しているが、今後、中級、高等専門コ-スは縮少の方針である。2005年には、直接B.A.コースを卒業した、初代の大学レベルの卒業生がPTとして輩出される予定となっている。(図2) カリキュラムは、保健省が管轄しており、教科書は保健省により提供され、同一の教科書が3つの養成校に配布されていることになっている。実際には簡易な印刷や複写程度の教材が利用されている様子で、養成校訪問時に実習、講義の見学も行ったが、書籍となっている教科書を用いての教育現場に遭遇することはなかった。 専任教員は少なく、臨床で働いている現職者の兼務による協力を得ている部分が大きい。病理学などは、一部の講義は専門医師が教務にあたることもあるが、基本的にはB.A.レベルのPTが、生徒の指導に当たことになる。

図1 Physical Therapist教育システム

図1

図2 Medical Technology School(ホ-チミン医科薬科大学付属校)の入学者の推移

図2

(5)協会、学会等の職種団体および卒後教育

コメディカルの専門職種として、知識・技術を習得し専門性・独立性を高めるためには、研修・学会など、資格者の卒後の教育が重要な課題である。また、職種の社会的認識を高めるためには、協会等の専門職種団体が重要な役割を担うと考えられる。我が国では、コメディカルの各職種が協会、士会等の同職種団体を設立し、卒後研修や学会の開催運営を行っている。 我々は、ハノイでは、ヴェトナムリハビリテーション協会協会長、ホーチミンではホ-チミンPT協会長とインタビューすることができた(表2)。

a.ヴェトナムリハビリテーション協会(Vietnam Association of Rehabilitation;VIAREHA)

設立は1991年で、医師を中心に,PT,障害者など約2000人のメンバ-がいる。医師が主導する協会の組織運営は、NGOであり、無料で障害者を対象とした活動を行っている。活動の目的は、技術と知識を高めることとし、活動内容はアメリカなどの他国のNGOと協力して、障害者やその関係者・家族に対して各地方で研修、勉強会を開いて教育している。 具体的には、政府の許可を得て各地でTV番組を通じて障害者に関する情報を提供したり障害者関係の書籍や障害者団体のネットワ-クを作り、情報を障害者に提供しているとのことであった。

b.ホーチミンPT協会

会員はPTが中心で、主に南部の21provinceのtherapistが入会している。会員数はおよそ300人程度である。また、High Landや中部のtherapistも入会を希望している。活動の目標は、PT関連職種が集まり、共同研究や研修を行うことであり、活動内容は学会を開催しセミナ-や研究発表を催したり、卒後研修を行ったりしている。 具体的には、1987年から、年に1回、毎年8月の初旬に学会を開木、セミナ-を開き、研究発表やレクチャ-を開催している。昨年のPT協会の学会には、2名の医師(リハビリテーション専門医師ではない)2名のほかは、PTが主な発表者で、ラオスからの発表者もあり、過去にはフランス、アメリカからも発表があった。また、卒後のtherapistを対象とした研修会も開催されており、年に3回以上、期間は3週間から長い研修では1ヶ月以上のものも開催されている。

表2 ヴェトナムのPTに関連する職種団体
 ホーチミンPT協会ヴェトナムリハビリテーション協会
所在地 HO CHI MINH HANOI
会員職種 主にPT、その他Dr. 主にDr、PT、障害者(団体)
会員数 PT中心に約300人 障害者を含め2000人
活動の目標 PT関連職種が集まり、共同研究や研修を行う 技術と知識を高めること
活動内容 毎年8月に学会を開催PTを中心にセミナ-、卒後研修 障害者や障害者団体への指導、教育が中心?
同業国際団体との関係 仮会員 会員

ヴェトナムにおいては、全国を一括した協会は無く、したがって全国のPTの人数も正確には把握できていない。養成校でも卒業者の人数は把握できているが、全員が医療機関に就職しているとは限らず、他の職に就いたものもいるため実際にPTとして勤務している卒業生がどの程度の人数かは把握していない。 今回、北部ハノイと南部ホ-チミンにある、協会を調査したが、北部ハノイのそれは、医師が中心で、医師の主導の下にPTが参加しているようであり、活動内容も障害者団体への情報提供やネットワ-ク作りが中心であり、PTを対象とした研修、卒後教育などは主要な業務ではないようであった。南部ホ-チミンのそれは、PT主導により,関係者のPTのレベルアップを図ろうとする努力を背景に、学会、研修等を開催するなど積極的な活動を行っていると感じられた。 北部のハノイよりも,南部のホーチミン市で、PTの独立の機運が高いことには,北部と南部の民族性の違いも関与していると推察された。

(6)訪問した病院のリハビリテーションの現状

a.Bach Mai病院 リハビリテーション科

Back Mai病院は、1911年フランスにより設立され、入院病床数140床、6研究機関、20治療部門、8治療外部門、8事務機関、看護学校を持つ総合病院である。職員数は2000人、医療スタッフは 400人、Nurse 800人、Technician 100人の組織である。この中でTechnicianは、リハビリテーション科、レントゲン、検査、生物学、薬剤、病理、等21科の診療科に配属されている。病院全体の平均入院日数は、12~14日で、学生700人から800人、外来患者は1日で7,000人から8,000人である。病院では医師、看護婦、MSW(Medical social worker)、コメディカルスタッフが連携して患者に医療サ-ビスを提供する「total care」の方針を打ち出している。 リハビリテーション科病棟は、外来訓練部門、義肢工房、リハビリテーション科病棟25床の3部門で構成されており、他診療科院病棟からは距離的にやや離れた位置にある。義肢工房は、同じ建物で入り口は異なり、独自に、海外のNGOの支援により運営されている旨公示してあるが、建物の中ではドアで行き来でき、日頃も協力して臨床を行っていると推察された。スタッフは、Dr.13人、PT8名、 Nurse6名、PO3名その他助手の計35人である。OT業務は、PTの一人が主にあたっており、STはいない。対象疾患は 頸髄損傷(四肢麻痺)、リウマチ、CVD、慢性疾患等となっている。一日の訓練実施患者は外来部門30人、入院35人で入院期間は疾患により異なり(中枢疾患患者は長くなる傾向にある)6週間から6ヶ月である。入院患者の入院までの経緯としては、Back Mai病院他科からの転科や、他の病院からの紹介、または自ら受診し入院する患者もいる。 施設スペースとしては、一日の扱い患者数から推定しても十分なスペ-スがあり、電気治療室、屋外訓練場も併設されていた。設備としても平行棒や、壁面肋木、訓練治療台、訓練用階段、自転車エルゴメ-タ、トレッドミルなど全般に揃えられており、ハ-ドの面は十分であると思われたが、やや旧式の物である感は否めなかった。PTのチ-フによれば,他の病院のほうが設備がよいこともしばしばで、就職した1978年から、設備、備品を買ってもらえていないとのことであった。 他科からのリハビリテーション依頼に対しては、病棟から離れていることもあり、主にスタッフが訪問してのBed sideでの訓練で対応していた。また、病院規模・患者数に比し依頼件数も多くなく、臥床患者に褥創が起きてからリハビリテーションが処方されるなど、リハビリテーションの開始が遅れることもとしばしばとのことで、他科からの依頼が十分早期・適切とはいえない状況のようであった。

b.Back Mai病院 神経内科

神経内科のスタッフは、計20名でうち指導医が5名、 ベッド数はStroke service unit34床、General Neurology(Tumors,Epilepsy, Parkinson)unit 28床, Infectious Neurology unit28床,Child Neurology unit10床の計100床である。1991年からはMRIが導入され、多発性硬化症の診断も可能になった。外来患者は100~125人で、救急部(24h体制)には1晩に20~24名の患者が搬送されるが、そのうち2/3がstroke患者である。入院患者の平均入院日数は12日から13日で、転帰としては、1/3がリハビリテーション科への転科、1/3がTraditional Medicine科へ転科、残りの1/3がprovinceの病院へ転院となっている。リハビリテーション科に転科するかどうかは,医学的適応というよりも、家族の意向が主因のようであった。神経内科入院中症例のリハビリテーションサ-ビスについては,リハビリテーション科訓練室に出かけて訓練を受けることは少なく、むしろ、stroke unitとして、海外で教育を受けた神経内科指導医が基本的なリハビリテーションについて指導し、Nurse・研修医・家族を教育する方針、あるいはリハビリテーション科からのベッドサイド訪問を受けることが主であるようだった。Neuro-rehabilitationの概念を持ち、ユニットとしての神経内科自体の独立性を協調した考え方を持っている印象であった。

c.国立小児病院 リハビリテーション科

リハビリテーション科スタッフは MD6名(専門医など)、PT10名、OT3名、ST3名、PO6名+助手である。訓練部門では、PT室の他にOT室、ST室とも独自に訓練の部屋が分かれており、スタッフもPTが兼任する形でなく、therapistが専門にOT、STとして任命されそれぞれの訓練を実施しており、他の病院に比べリハビリテーション科内の専門性を保った訓練内容である印象であった。設備もPT、OT、ST各職種の訓練室が独自に設けられ、その他に、機能評価室、電気治療室もありスペ-スも十分であり充実した施設であった。その他に義肢装具作製室があり、作製の機材、人材も充実したものであった。診療内容としては,国立小児病院として、リハビリテーション科のみで年間10,000名の評価・治療目的の外来患者がある。紹介で、あるいは親が受診を希望して来院するケースがほとんどであるという。北部随一の国立小児病院におけるリハビリテーション部門として,次に述べるサービスも展開している。

(1)集中入院コ-ス

対象者の障害児と家族が、ゲストハウスに滞在して3週から4週間の集中訓練を実施する。

(2)出張装具サ-ビスコ-ス

MD、PT、Nurse、POが、一台のトラックに乗り、サ-ビスの行き届かない地域を1週間程度滞在しながら訪問し、障害児の評価、装具の作製・利用訓練指導を行う。年間を通して出張し、ヴェトナム北部地域をカヴァーしているとのことであった。

(3)3歳から6歳児集団クラスコ-ス ”Early intervention”

新生児・乳児期のスクリーニングで0-3歳までに抽出された,脳性麻痺,あるいは自閉症の3歳から6歳児を対象にした、集団訓練クラス、9名の小児について1名のSTをリーダーに、OT、PT各1名で計2時間のクラスを行う。1クラスは1ヶ月継続し、脳性麻痺2クラス、自閉症2クラスの計4クラスが同時に運営されている。 8人程度を単位とする集団訓練なども行われていた。 いずれも、医学的適応に加えて、需要の多さに対するスタッフの効率的活用、ヴェトナムの実情を配慮したコース設定となっており、国立小児病院としての意義を果たしていると考えられた。 家族向けの冊子の発行、実費配布もおこなっていた。障害児教育についても質問したが、障害児教育はシステム化されておらず、ほとんどの時は、就学年齢に達しても就学の機会は無く、家族の庇護下に在宅生活を行っているとのことであった.

d.Cho Ray病院

ホーチミン市の総合病院におけるリハビリテーション科では,スタッフは、MD3名、PT20名(うちOT兼務2名)、cleaner1名の計24名で、PO、Nurseはいない。リハビリテーション科の入院病棟は無く、一日の訓練対象患者は、外来患者100名、他科入院30患者である。CVA、交通事故、四肢障害、脳障害などについて、外来中心にリハビリテーション・サ-ビスが提供されているようであった。Cho Ray病院は、1500床(1900人入院)の総合病院であり、毎日100件程度の手術、そのうち50%が緊急手術、その60%が交通事故である。脳外科・神経内科・整形外科も確立しており、本来入院症例のコンサルテーションがもっと件数があっても良いようであるが、また、依頼時期も遅く、院内での普及が課題であるようであった。リハビリテーションサ-ビスとしては、PTしかいないが、訓練室の一角にOT作業用のスペ-スが設けられており、2名のPTがOT的な対応を行っていた。ST的対応は行われていない。小児・障害児に対しては、小児科がないため対応していない。また、義肢・装具の作製については地域の私立の工房に一任していた。訪問時には1室にて、20名程度の医学生がレクチャーを受けていた。リハビリテーション訓練室の、施設の内容としては、3院の中ではもっとも近代的で、日本のそれとほぼ遜色ない程度の施設内容である印象をもった。ただし、装具を装着している症例は少なかった。PTのレベルとしては、中級専門コ-ス卒業の助手的な業務を行うtherapistも多く、訪問時にはUSAからのPTがボランティアで指導していた。(表3)

表3 訪問した3病院の比較-コメディカルの活動を中心に
 Back Mai 病院国立小児病院Cho Ray 病院
MD 13 (専門医など) 6 (専門医など) 3
PT,OT,ST,Ns 8・(1)・0・6 10・3・3・0 20・(2)・0・0
PO 3+助手 6+助手 0
診療内容 入院患者35
外来患者30
他病棟出張
外来評価・訓練
出張装具サービス
集中入院コース
3-6歳児集団クラス
外来患者100
他科入院30

6.考察:現地調査によってわかった問題点

(1)リハビリテーションの概念の普及・啓蒙

ヴェトナムでは、一般市民はもとより、医療関係者の間においても、リハビリテーションの概念の普及が不十分であると感じた。他科での、患者のリハビリテーション依頼や処方の遅れにより、リハビリテーションの開始が遅れ、患者の機能回復や能力改善が図りにくくなるケ-スや、適切なリハビリテ-ションサビスされれば、社会復帰が可能な患者が、リハビリテーションの処方がされないなどのケ-ス゛も病棟では存在することが推測された。(Back Mai病院、Cho Ray病院では、病床数から概算して他科からのリハビリテーション処方・依頼件数が少ない)また、PT自身も、病院勤務の後にマッサ-ジ店を開業するなど針、灸などの東洋医学と混同されている面も見受けられた。協会や、同職種団体、障害者団体などのネットワ-クを構築する、機能を高める、保健省の情報提供を促進するなどリハビリテーションの概念の滲透と、PTの社会的認識を高める必要があると思われていた。 わが国においても、リハビリテーション科は、他の科に比し、確立・普及が遅れ、国立大学における講座・授業数多くない。それに比べると、全医学校においてリハビリテーション医学の授業・実習が確保できているヴェトナムは、リハビリテーションの普及において有利な条件もあるので、それを生かすような戦略が重要であると考えられた。

(2)病院内におけるコメディカルの位置付け

ヴェトナムでは、コメディカルスタッフは、独立した専門職ではなく一括してMedical technicianと呼ばれ、専門職としての専門性、独立性が低いと思われた。これには,教育年限が短いことと、各職種の知識、技術のレベルが高くないことが多いことが関連していると考えられた。大学卒業のコメディカルの増加によって、これらの状況は改善してゆく期待があるが、現在の奉職者に対する教育・研修も重要である。コメディカル各職種の専門性を高め、それぞれの職域でのレベルアップを図ることが必要と考えられた。

(3)コメディカルスタッフ養成:人材のリクルートと教育内容の充実

各職種とも、国家資格が無く養成校卒業が勤務資格の条件となっている。PTの養成に関しては、現在教 育レベルはハノイ医科薬科大学付属校で大学レベルの教育カリキュラムが始まっているが、まだ生徒数がわずかで、専門学校制度のカリキュラムの学生が多数を占めている。専門学校制度の教育内容は、リハビリテーション業務の助手を養成するレベルであり、PTとして指導したり独立して業務にあたるまでには至っていない。学歴社会のヴェトナムにおいて、学歴が低い→就職後の条件が悪い職業は魅力に欠けることが容易に推察され,優秀な人材を集めるのには学校制度の改革が不可欠と考えられた。養成校の数も、全国で3校で、医科大学や看護師養成校に比べて圧倒的に少ないのが現状であり、病院におけるスタッフ数も少ない。どのような経緯で学校の存在をしるのか、受験を決意するのか興味のあるところである。どうやら希望者数も多くない様子である。高校卒業にあたって、コメディカルの学校に行こうと考える学生を増やすための工夫が、今後のレベルアップに必要である。カリキュラムは、保健省が管轄し教科書も同一のものが配布されていることになっているが、実際には生徒数が少ないため、出版に費用を要し簡易なものにとどまっているようである。購入者数が少ないために,出版物・ヴェトナム語の教科書がほとんどないとのことであった。

(4)卒後教育を担う職種団体:臨床の進歩をバックアップするシステムの構築

各職種の知識、技術のレベルアップには、卒後研修や学会など研究発表の場は重要になる。我が国では、各職種に協会、学会等の同業者職種団体が存在し、卒後教育や研修、学会運営を担っている。ヴェトナムには、PTに関しては,全国を一括した職種団体組織が無く、北部、南部をそれぞれ拠点に、2つの団体が組織されていた。北部のリハビリテーション協会は、医師を中心とした組織で、PTの職種団体,卒後研修としては,南部ホ-チミンのPT協会のほうが活発であった。ヴェトナムは南北に広い国家であり,各地にこのような拠点ができること、そして、最終的には国でひとつの職種団体が形成されることが重要と考えられた。他のメディカルテクニシャンにおいても、職種団体はほとんどないとの情報である。職種団体の適切な形成には、向学心に富み、運営能力のある優秀な人材の存在(高学歴化によって増加が期待)と、職種団体の存在や活動内容についてのモデルの普及の両者が必要である。優秀な、核となる人材が、海外において職種団体の活動を研修する、ということが望まれる。

(5)卒前・卒後教育に共通する教科書・参考書不足:国際協力のひとつのプロジェクトの可能性

ヴェトナムにおけるリハビリテーション・コメディカルは,書籍購買者層としては人数が少ない。そのために,ヴェトナム語での市販のテキストが少ない。いっぽうで、医師と異なり、教育程度の関係から、洋書を読みこなす人材もまた少ない。卒前教育のためにも,またすでに奉職している意欲ある人材が参照するためにも、適切な、コメディカル向けのヴェトナム語の専門書が増加することが必要である。購買者の少ないことから、適切な書籍の翻訳・出版は,商業的には今後増加の見込みは少ない。いっぽう、国際協力のひとつのテーマとしては、書籍の翻訳・自費出版を、日本や欧米の適切な書物を選択してヴェトナム国内で行うプロジェクトであれば、人材派遣に比較して費用が少なくて可能であり、かつ、長期的波及効果が期待できる。

7.謝辞

今回の調査にあたり、インタビューにご協力いただいた下記の方々に深く感謝いたします。

Bach Mai Hospital

  • Dr.Tran Thuy Hanh, - Head of Personnel Department,
  • Dr. Nguyen Quoc Tuan - Head of General Planning Department
  • Dr. Le Van Thinh - Head of Neurology Department
  • Staffs of Department of Rehabilitation
  • Dr Nguyen Xuan Nghien-President of the Vietnam Association of Rehabilitation Head of Rehabilitation Department
  • Dr Tran Van Chuong,-Vice Head of Rehabilitation Department Head of Rehabilitation Department of Ministry of Health
  • Dr. Cao Minh Chau,-Head of Rehabilitation Dept. of Hanoi Medical University Deputy Head of Rehabilitation chair
  • Ms Truong Mong Hang, PT-Head of Physical Therapy Department Medical Technical College No.1 Dr Nguyen Thi Lien- Vice Director, Director of Physical Therapy Department
  • Ms Dinh Thi Dieu Hang, Member of Education Department,International Relation division

Ministry of Health

  • Dr Tran Trong Hai-Director of International Cooperation Department,
  • Dr Do-Khang Chien-Vice Director of Therapy Department, MOH.
  • Dr Tran Van Chuong-Head of Rehabilitation Office of Therapy Department, MOH ,National Pediatric Hospital
  • Dr. Tran Thu Ha-Vice Head of Department of Rehabilitation.

Cho Ray Hospital

  • Dr. Hoang Hoa Hai, Chief of Training Department
  • Dr. Bui Thu Hue, Chief of Physiotherapy University of Medicine and Pharmacy
  • Dr Do Ding Ho-Director of the Faculty of Nursing and Medical Technology
  • Dr. Nguyen Thi Huong- Head of Physical Therapy Department
  • Dr. Nguen Anh Chi-Vice Head of Physical Therapy Department

また、バックマイ病院プロジェクトの皆様および,国際協力経験者として様々なのアドヴァイスを下さった多くのセンター職員の方々にもお礼申し上げます。ヴェトナムにおけるリハビリテーションについてご教示、また訪問先のご紹介をして下さった、「ベトナムの子ども達を支援する会」坂東あけみ、古澤正道両氏にも心から感謝いたします。